2012年11月22日木曜日

11/17 大学受験数学Ⅰ~条件つき確率~                その間違いがわかりますか?

今回は“条件つき確率”について「条件つき確率の定義・確率空間の再設定」「条件つき確率のもう1つの定義」「条件つき確率の利用に関する注意点」「条件つき確率の問題」を講義した。

先日、「教科書や参考書は間違いだらけ」と書いたが、信じられない人も多いだろう。そういう人は「もしかしたら自分は、自分で気づいていないだけで、日本人独特の『お上の言うことを鵜呑みにしてしまう人間なのかもしれない』」と疑ってみた方がいい。

この“条件つき確率”という項目も、ほとんどすべての教科書・参考書・塾テキストが間違っている項目である。
まず、条件つき確率の定義を書いていないもの、これは論外である。数学において定義のない概念を議論することなどできない。特に多いのが、具体例をあげて、「このような確率を条件つき確率という」というスタイルのものだが、これは定義とは言えない。分かりやすくするために具体例を上げるのは大事なことだが、定義は定義できちんと行わなければならないのは当然のことである。しかし、それを行っていないものが多いのだ。
また、間違いとは言えないが、明らかな説明不足であるのが、その定義の仕方である。この説明の足りなさが、“条件つき確率”というものが受験生にとって意味不明で掴みどころのないものになっていると思う。
当室では、条件つき確率を確率空間の再設定を行って定義するのだが、その説明が面倒なのか、結果的に同じ定義であるものでも、ベン図のような絵を書いて面積の割合に見立てるだけで、確率空間を再設定していることにはふれないものばかりである。また、当室では「条件つき確率のもう1つの定義」としている以下の定義を行っているものも多い。






もちろん間違いではないし、こちらの方が便利な場合も多いのだが、これをいきなり条件つき確率の定義にしてしまうと、以下の乗法定理とよばれる式が単なる(※※※)の式変形に過ぎず、“何ゆえに定理たりえるのか?”が全く理解できないはずである。当室では、確率空間の再設定による定義から以下の乗法定理を証明し、乗法定理の式変形として(※※※)を得るという流れで指導している。




ネーミングは意味もなく行われているわけではない。わざわざ“定理”と書くにはそれなりの理由があるのだ。思い起こしてみてほしい。わざわざ“~定理”とネーミングされたものをいくつ知っているか?と。意外に少ないはずである。以前から書いている“中点連結定理”も同じである。意味もなく“定理”と付いているわけではないのだ。重要だからついているのである。そのような重要なものが、定義の式変形で終わりとか、相似の性質より明らか、であるはずがないのだ。このような意味のないネーミングになってしまっているのは、教科書や・参考書がその導入を間違っているからである。


また「条件つき確率の利用に関する注意点」として、以下のような問題を作成して講義した。

 
この考え方の誤りがわかるだろうか?
多分、分からないのではないだろうか・・・
私の知る限り、1冊の例外を除いてすべての教科書・参考書・塾教材にこのような解答が書かれているし、先の条件つき確率の定義における具体例で上記の類の説明がなされることも多いくらいである。しかし、これは明らかな間違いで、答えがあっているだけである。
教科書作成の東大や京大の名誉教授クラスの先生方が、まさかこの誤りに気づいていないとは思えないし、教科書は大学受験をしない生徒にも読ませなければならないものだから、厳密さよりも分かりやすさを重視して書くということには一定の理解は示せるものの、わかりやすさというような主観的なものは人それぞれ違うのだから、分かりやすさを重視して間違ったことを書くというのはやはり違うのではないかと思う。
一方、大手大学受験予備校や塾でそれなりの地位にある大先生がこのような間違いを平気で自分の本に書かれていらっしゃるのは、読者のわかりやすさに配慮したものではなく、明らかに本人の理解不足ゆえのものであるので、情けない限りである。

私自身は、高校生の頃、この解答は誤っているのではないかと思ったのだが、昔の田舎の高校生が手に入れられる参考書には限りもあったし、そのどれを見ても同じスタイルの解答が書かれていたので、自分が間違っているのか?と思いもしたが、条件つき確率の定義からどう考えても明らかに自分が正しいと信じていた。ただ、それを確信にしてくれる本を読んだことがなかった。

そして、月日は流れたが、何十冊という教材に目を通した結果、私が指摘する誤りを同じく指摘しているものはたった1冊、故矢野健太郎先生の「解法の手びき 確率・統計」(絶版)のみであった。
矢野健太郎先生はアラ30以上の人には参考書ばかり書く大学の先生というイメージが強いかもしれないが、実は数学者として超一流で、東京大学を卒業して東京大学の助教授になられ、その後に当時から世界最高峰として知れ渡っていたプリンストン高等研究所に呼ばれた程の大数学者である。プリンストンではかのアインシュタインとも親しくされており、現在の日本に矢野健太郎先生クラスの数学者はほとんどいないのではないだろうか・・・
そのような本物の数学者が書かれた参考書を読むことができないだけでなく、商業主義に走った間違いだらけのエセ参考書しか読めない今の高校生は可哀想である。

大手予備校・塾の先生方は数学の問題を解くのが得意で大学生になってアルバイトをしてそのまま講師になってしまった人が多く、数学を真面目に勉強したことのある人はほとんどいないようだ。しかし、自分が本を書く以上はもっと謙虚になって勉強し直してはいかがかと思う。数学では問題を解けることと数学を正しく理解していることとは同じではないのだから。


宿題は今日の復習をしっかりとして、次回復習テストで合格点をとれるようにしてくること。